YASさん ~The World~

デザインから日常から~

一度きりのサンタクロース


クリスマスを目前に控えた、ちょうど今と同じぐらいの時季、まだギリギリで水を弾く肌を持っていた若かりし頃のYASさんは、とある日の昼下がり、知り合いのオッサンの引っ越し作業を手伝っていた。

家具、家電、洋服、雑貨など、元々少ない荷物を今回の引っ越しで更に減らすとの事で、処分するか否かを逐一聞きながらの作業。まだ使える物で、且ついらない物はYASさんが貰った(今酒を飲む時に使っている青い切子グラスはその時に貰った物。未使用の新品で5つセットだった)。

そんな中、何故か新品の野球のグローブが出てきた。どう見ても一度も使った形跡は無く、保存状態も非常にいい。
本人に聞いてみたが、何故そんな物が家にあるのか分からんと。別に野球するワケでもないし、いるならあげるよーと。私も別に野球なんてしないし、今後使うであろうとも全く思わなかったが、見たところ結構な値段のしそうな物だった。捨てるのも勿体無いと思い、一応貰っておいた。

流石、腐っても元社長と言ったところか。
「コレ高いンじゃね?」というような物が箱に入った新品のまま保管されている事も多く、引っ越し作業が終わる頃にはYASさん持参のカバンはホクホクだった。








さて、全ての作業が終わり、お礼に居酒屋をご馳走になり、家路に着く頃には日付が変わろうとしていた。静まり返るマンション内。そりゃそうだ。単身用の家ならまだしも、どちらかと言うとファミリー向けのマンションだ(その当時ね)。子ども達はとっくに寝んねの時間である。

そこで閃いた。特に意味も無くなんとなく貰って来た新品のグローブ。そして控えるクリスマス。自分が持っていてもいずれ捨てるか売るかする物なら、子どもにあげようじゃないか!と。

早速家に帰り、手頃なサイズの袋にグローブを入れ、ちょっとした手紙をしたためる。
「早い者勝ちでサンタさんからのプレゼントだよ!Merry Christmas!」

他の住人に見つからぬよう、サンタというより、もはやコソ泥のような動きで共用エレベーターの中にグローブを吊るす。準備は万端である。明日の朝には登校前の子ども達の喜ぶ声と、お母さん方の「もしかしてウチのマンションに変質者?」という心配の声が聞けるハズだぞ!ԅ( ¯ิ∀ ¯ิԅ)グヘヘヘ









そして翌朝、特に大きな騒ぎにはならなくて済み、無事グローブも無くなっていた。共用部分に「どこの変質者ですか?」みたいな貼り紙をされる事もなく、プレゼント企画は終了した。

サンタのYASさん…そう…YASサン(さん)タが誕生したのである!

誰よりも自分が貧しいにも関わらず、貧しい子どもにプレゼントを送るYASサンタ。天国の聖ニコラウスも目を丸くして拍手喝采の表彰モンである。かのイエス・キリストも腰を抜かす偉業である。